スーパーマーケットの特売日には、運が良ければ1ケース(10個入り)の卵が98円で買えることがあります。また、178円の時もあるし、198円の場合もあります。あるいは、ちょっと贅沢をしたいときは、6個300円の栄養剤(ビタミンAとかE)入りの赤だまを買うこともあります。いずれにしても安いです。
しかし、薬剤耐性菌の脅威が言われるようになり、感染症は、感染症にハイリスクな者、たとえば幼児、老齢者、手術などを受けて免疫力が弱っている人などに危険きわまりないものになりつつあります。それで、この利便性を単に「ありがたいことだ」と感じてもいられないのかもしれません。
卵は菌を持っている割合が24000分の6個というものだし、菌自体も日和見菌といって健常者が発症することはまれということで、卵が危ないというものでは決してありません。ただ、食用動物への抗生物質などの過用や誤用が、薬剤耐性菌を作ると考えられ、使用法の見直しが迫られています。
流通形態の変化
卵は、1980年代になって一般小売店からスーパーマッケトなどの量販店の取り扱いが飛躍的に増え、ことに特売の「目玉商品」としての商品特性が与えられました。この役割は今にいたるまで変わっていないようです。
スーパーマーケットの卵販売は、昭和51年(1976年)と60年(1985年)を比較すると、取り扱い量が全生産販売高の28%から41%と大きく伸びています。それとともに、企業体系列の集荷業者や、会社直営農場からの出荷量が増えてきました。
農林水産省は、昭和56年(1981年)に「畜産局長通達」を出し、「計画生産」を推進してきました。その結果、卵の生産は次第に大規模農場化(工場化)していき、生産量がほぼ同じだが、平成2年(1990年)に飼養戸数が8万6500だったものが、平成3年(1991年)に一挙に1万100戸にまで減少し、構造的な変革が完了されました。
違うデータで言い換えると、昭和50年(1975年)には、50万7300戸(鶏卵流通統計)の採卵鶏の飼養戸数だったが、平成8年は6800戸(畜産統計)と約20年の間に98.7%が淘汰され、より大規模化への道を進みました。
動物医薬品を使う理由
一方、気になるのは、この大規模化と動物用医薬品の大量消費の関係です。
この関連のデータは、「薬事工業生産動態統計」(農林水産省)や「繁用医薬品年間推定販売費」(厚生省)などの統計が参考になると思います。
動物医薬品は、「動物薬:薬理作用別販売高の推移」(農林水産省畜産局衛生課)によると、昭和52年(1977年)に530億2406万円の販売高があり、そのうち抗生物質製剤は267億4404万円で、総販売高に占める割合が50.4%でした。この数値は、飼料添加物に含まれる抗生物質や栄養剤は含まれないので、この分が240億円と推定(薬事ハンドブック1980)され、合計770億円。
そして、平成8年(1996年)は、694億7800万円の販売高があり、そのうち抗生物質製剤は302億9700万円で、動物薬の総販売高に占める割合が43.6%になっています。平成8年の飼料添加物や飲料水などに混ぜて使う分は不明(この部分が大切と思うので、引き続き調べ、分かり次第付け加えます)です。
これだけを見ると、金銭的な価値の変動量の差に見えますが、忘れてならないのが豚や牛や鶏は輸入量が大きく増加していることです。昭和60年(1985年)と平成7年(1995年)の比較(「食肉流通統計」「食鳥流通統計調査」)では、豚の頭数は2063万9000頭から1760万5900頭に減少し、成牛は153万6400から149万3800とほとんど変わらないが、ブロイラーは7億500万羽から6億600万羽になっています。つまり、一頭(一羽)あたりの薬剤投与量はかなり増加してると思われます。
ところで、飼料になぜ抗生物質が入って入るの?と不思議な感じがします。
調べてみると、卵生産に限らず、食用動物を効率的に?生産するため、せまい畜舎にぎゅう詰めで、運動や日光浴も十分にさせられないので、免疫力が弱い動物たちになっているらしいです。そして、それを生産者や行政、そして消費者は「当然のこと」ないし「仕方がないこと」と考え、あるいは「黙認」し続けてきました。または、現在も積極的に「それでよいのだ」と考えている人も多いと思います。
それは、「動物用薬品耐性菌特別対策事業成績」(動物医薬品検査所)で中間報告の書き出しの部分「近年の多頭羽畜産の安定的経営にとって抗生物質をはじめとする抗菌剤の使用は、我国のみならず世界的に必須のものとなっている。」という表現の中にはっきりと見てとれます。また、昭和55年9月30日農林省令第42号「動物医薬品の使用の規制に関する省令」では、アンピシリンやエリスロマイシン、そして硫酸ストレプトマイシンなど抗生物質の名前が延々と続き、その使用基準が動物別に記されており、その薬剤の種類と用途の多さに驚かされます。
耐性菌の出現
日本で最近問題になったバンコマイシン(Vancomycin)の薬剤耐性は、「Emergence and epidemiology of vancomycin-resistant enterococci in Australia」によると、1988年にイギリスで始めて報告されました。ほんの10年前に過ぎませんが、耐性を持った菌株の割合は、1989年には0.3%だったが、93年には7.9%に跳ね上がり、そして現在(98年)は15%になっています。
オーストラリアに出現したのは、1994年で1998年までに69件に耐性菌が分離されました。4種類の菌株が、それぞれにコンスタントに?増え続けています。
そのスピード、そして柔軟さが耐性菌の脅威と言われる理由であろうと思われます。柔軟さというのは、こういうたとえが適切でないかもしれませんが、人間が仕掛けた抗菌剤という最強の暗号鍵を、やすやすと解読してしまうような感じです。抗菌薬が、特定の菌に対して陳腐化してしまう。
バンコマイシンは、メシチリン耐性腸球菌(MRSA)という感染症の特効薬として、盛んに使われている抗生物質です。ところが、このバンコマイシンは食用動物には使われたことがありませんでした。
それが、なぜ動物の体内に育ったかというと、昭和60年10月にアボパルシン(avoparcin)という抗生物質が、飼料添加物として認可され、動物の病気予防と成長補助剤として盛んに使われてきました。抗生物質は、ごく弱い濃度で続けて使うと、少ないエサの量で、動物を丸々と育てる能力があるらしいです。それで、世界中で重宝がられてきました。
この薬剤が、バンコマイシンと化学構造が類似していたので、「飼料添加物としてこれらの抗生物質を使用することによって、鶏の腸球菌が耐性を得て、その耐性因子が人のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に移れば、バンコマイシンの院内感染症の特効薬としての有効性がなくなる可能性があるとの説がある」ということです(平成9年2月5日「飼料添加物の指定の取消しについて」より)。
薬剤耐性菌対策
対策は、WHOのWHONET(抗微生物剤耐性調査センター)が中心となり、