がんとビタミンA
   京都府立医科大学助教授  吉川敏一先生

   ”ビタミンA”や”βカロチン”は、がん予防に効果のあるビタミンとして注目されています。がん予防のためには、発がんのリスクとなる喫煙をやめるとともに、これらのビタミンが多く含まれるレバーや緑黄色野菜を適切にとることが大切です。

現代人とピタミン
偏食やダイエットがビタミン不足を招く
 ビタミンは、筋肉や骨、血液をつくったり、生命活動に必要なエネルギーを一産生するのに欠かすことのできない「栄養素」の一つです。
ビタミンを定義すると、「ビタミンとは、有機化合物で生命活動に必要不可欠な(原則として食べ物から補給する必要のある)微量栄養素」ということができます。
 今の日本は、”飽食の時代”といわれるように食べ物が豊富にあり、ビタミン不足の心配などないと思われています。確かに、昔のようにビタミンA欠乏による夜盲症(鳥目・暗いところでものが見えにくくなる)、ビタミンB1欠乏による脚気といった典型的なビタミン欠乏症は少なくなりました。
しかし、ビタミン欠乏症にならないまでも、現代人は、潜在的にビタミン不足の人が多いようです。では、どのようなライフスタイルがビタミン不足を招くのでしょうか。
 まずあげられるのが偏食です。さらに女性に多い栄養を度外視したダイエットです。また、多くの人が現代社会の産物であるストレスを毎日受けながら生活していますが、その解消法として喫煙をしたり、お酒を飲んだりしています。こういう生活習慣は、ビタミンの吸収を妨げるだけでなく、ビタミンの消費量を増やします。その結果、ビタミンが潜在的に不足すると、特別疲れるょうなことをしていないのに、「何となく疲れやすい、だるい、いらいらする」といった症状に陥りやすくなります。
 現在13種類のビクミンが知られていますが、今回は「ビタミンA」について解説します。


ビタミンAとβカロチンの関係
 βカロチンはビタミンAの前駆体物質

 ビタミシAは、レバーなどの動物性の食物に多く含まれています。また、ま最近話題になっているβカロチンは、オレンジ色をした色素で、にんじんなどの緑黄色野菜に多く含まれています。
 ビタミンAとβカロチンは、このように異なる食物に多く含まれていますが、実は構造が非常に似ており、密接な関係にあります。というのは、ビタミンAが不足してくると、酵素の働きによって、体内でβカロチンが二つに分解されてビタミンAがつくられるからです。そのため、βカロチンは、ビタミンAの前駆体物質ということで、「プロビタミンA」といわれています。
 ピタミンAは、以前からがんを予防するなど、いろいろな効果があることが知られていましたが、4〜5年前から前駆体物質のβカロチンにも効果があることがわかつてきました。


ビタミンAの働き
皮膚の角化を防ぐだけでなく発がんの抑制効果も  ビタミンAには、三つの作用があります。
  1. 網膜の構成成分になる   食物として体内に取り込まれたビタミンAは、小腸で吸収され、いったん肝臓に運ばれます。そして、その一部が網膜に送られます。網膜には、光を感じる視細胞があり、ビタミンAは、たんばく質とともに、視細胞を構成する成分になります。
  2. 皮膚の角化を肪ぐ 肝臓に運ばれたビタミンAの一部は、皮膚の表皮に送られます。ここで、ビタミンAは、表皮細胞が壊死してはがれていく(皮膚の角化)のを防ぎます。
  3. 発がんを抑制する ビタミンAとがんとの関係は、これまでにいろいろな研究が行われています。その結果、ビタミンAには発がんを抑える効果があることがわかっています。しかし、そのメカニズムについては、まだはっきりしたことがわかっていないのが現状です。
 ただ、ビタミンAには、皮膚の角化を防ぐなど、上皮細胞を守る働きがあるため、上皮細胞の異常を防ぎ、発がんを抑制する作用があるのではないかと考えられています。
 このように、ビタミンAには、さまざまな作用があります。そのため、ビタミンAが不足すると、「目が疲れる、目が乾く、目がなかなか暗闇に慣れない、皮膚が乾燥してかさつく」といった症状が現れるのです。


βカロチンの働き  細胞膜の酸化を抑えがんを防ぐ効果が認められている

 βカロチンには、大きく二つの作用があることがわかっています。


 もともと体には、こうした体内の酸化を防ぐ酵素が存在し、体を守っています。ところが、酸化を促進する喫煙や大気汚染、ストレスなどの比重が増大すると、体内の酸化が進んでしまいます。そこで現在注目されているのが、抗酸化作用のある「βカロチン」です。
 ビタミンAに変化しないβカロチンは、〃リポたんばく〃というたんばく質に包まれ、全身に運ばれ、細胞膜に取り込まれます。そこで、細胞膜の酸化を防ぐ働きをするのです。
 また、βカロチンは、疫学研究からがんの予防効果があることが立証されています。特に、中国の林県という地域では、βカロチンの投与によって胃がんの罹患率が21%、がん死亡率が13%も減少したという報告があります(グラフA参照)。
 ところが、これとはまったく逆の調査もあります。フィンランドのへビーズモーカー、工場地帯の住民を対象とした調査(グラフB参照)や、今年のはじめに記者発表されたアメリカでの研究によると、「βカロチンは、がんの予防に効果がない、あるいは、逆にがんのリスクが高くなる」というのです。
 フィンランドやアメリカで行われた調査からわかるのは、「喫煙や大気汚染など、がんのリスクのある人にβカロチンを投与しても、効果は望めない。さらに、アメリカ人など、もともとβカロチンを十分に摂取している人に対しては、改めてβカロチンを投与しても効果に変化は見られない」ということです。
 これらの調査は、日常的に食品から吸収できるβカロチンの量をはるかに超えて投与されているので、βカロチンの効果を完全に否定するものではありません。今後の慎重な分析を待つ必要があるでしょう。


 ビタミンA、βカロチンの上手なとり方
 ビタミンAは過剰摂取に注意。βカロチンは油と一緒にとる

 ビタミンAやβカロチンは、脂溶性のビタミンなので、一度体内に取り込まれると、数日間体内に留まります。
 ですから、毎日とる必要はありません。週に2〜3回ほどビタミンA、βカロチンを含んだ食品をとればよいでしょう。
 また、βカロチンを含んだ緑黄色野莱は吸収率が低いという特徴があるので、吸収率を高めるためには、油を使って調理するとよいでしょう。
 一方、ビタミンAは過剰摂取に気をつけなばいけません。大量にとると、ビタミン過剰症に陥り「頭痛や吐き気、食欲不振、発疹」などの症状が現れることがあります。特に、妊娠中の過剰摂取は、胎児に影響が出ることがあるので注意しましよう。

ビタミンAを多く含む食品  参考資料:「NHKきょうの健康」1996年5月号 日本放送出版会 


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