食物繊維のもつ、こんな作用

肥満や便秘、痔などを予防する

 食物繊維の多い食べ物をとると、咀嚼回数が自然に増し、唾液分泌も多くなります。そのため胃内での体積も増え、そのぷん早く満腹感がられます。結果的に、食べすぎ、肥満防止に役立つというわけです。
 また食物繊維が便秘に有効であることも、古代ギリシヤのころから知られていました。
 「とくにセルロースなど水不溶性の食物繊維は,腸内細菌による分解を受けにくく、水分を保持する性質がありますので、便の形成が非常にいいのです。また、ペクチンなどの水溶性繊維は水分を吸収する膨潤(ぼうじゅん)作用がありますから、ボリュームがあって柔らかい便ができます。これが下行結腸から直腸に入って来ると、その圧力で腸の蠕動(ぜんどう)が促され、スルリと排便されるのです』(印南氏)特別に力んだりしなくとも快便が得られるようになりますから、痔の予防にも効果があります。

血糖値の上昇を遅らせる作用

 糖尿病の予防およぴ治療に食物繊維が有効であることも、多くの研究者が認めています。「とくにペクチン、ガム質、アルギン酸などのような水溶性食物繊維は、水分をつつみこんで粘度の高い溶液をつくるので、胃から小腸への食べ物の移動がゆるやかです。同時に、小腸でのブトウ糖(グルコース)の吸収速度が緩慢となり、結果として食後の急激な血糖の上昇を防ぎます」(桐山氏)
 血糖の上昇がゆるやかであれば、血糖値の上昇を抑えるようにはたらくインスリンを無理なく作用させることになり、インスリンの産生に負担をかけずにすみます。
 したがって、糖尿病の予防や治療には、食物繊維をとることが有効で、すでに高食物繊維、低脂肪、高炭水化物食が治療食としてとり入れられています。


コレステロールの吸収を阻止する作用

 虚血性心疾患や動脈硬化症と食物繊維の摂取量との関連は、早くから指摘されていました。そこで注目されたのが、その原因となるコレステロールとの関係です。
 「私どもの動物実験では、コレステロールと食物繊維を共にたくさん入れたエサを与えた場合、確かに食物繊維がコレステロールの吸収をプロックすることが判明しています。この作用は、とくに水溶性食物繊維に強くみられます」(桐山氏)
 また、コレステロール値がすでに高くなっているネズミに、食物繊維を与えた場合、一部食物繊維は血漿コレステロール値を低下させることが見出されています。しかし、その作用のメカニズムはまだわかっていません。
   少なくとも、血液中のコレステロールを適正に保つためには、適量の食物繊維、そして各栄養素のバランスを考えた食事が大切であるといえます。

大腸がんの発生を抑える作用

 食物繊維の効用でなんといっても大きいものは、大腸がんの発生を抑えるはたらきです。大腸がんは日本でも急激に増えています。その理由は食生活の内容の変化にあるという説が有力です。つまり、大腸がんは、高たんばく、高脂肪、低食物繊維の食生活でおこる欧米型の病気と考えられているのです。
 では、食物繊維が多い食事をとると、どうして大腸がんの発生が抑えられるのでしょう。「食物繊維が多いと便の量が増え、発がん性物質の濃度を薄める効果があります。それに便量が多ければ排便回数も増えて腸内にとどまつている時間を短くするため、発がん物質が大腸粘膜に長時間ふれることなく、すみやかに排出されるというわけです」(印南氏)
 「もう一つ、これはまだ推測の段階ですが、腸内にすむ各種細胞の勢力分布が変化することが考えられます。食物繊維を多くとると、バクテリアによるそれらの分解・発酵が行われますが、そこで、たとえば発がん物質などの有害物の暗躍を抑制するのに有効な細胞群が優勢になる、といったことがおこるのではないかと」(桐山氏)
 ここで、食物繊維の腸内での分解についてもう少しくわしくふれておきましょう。
 腸内細菌によって食物繊維はさまさまに分解・発酵され、腸内細菌のエネルギー源として利用されます。
 「分解によって最終的には炭酸ガス、水素、メタンガスなどが生成されますが、重要なことは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸や乳酸の生成で、これらは腸内の環境を改善します。大腸内が酸性になることで、アルカリ性の環境下で産生されやすい発がん物質の生成が抑えられます。したがって、食物繊維をとって大場内を酸性に保つことが望ましいという考え方が定着しつつあります」(印南氏)
 「分解によってできた短鎖脂肪酸や乳酸などは、吸収されてエネルギー源になるものもあります〕(桐山氏)
 腸内細菌による分解の程度は、食物繊維の種類によって異なります。水溶性のペクチン、植物ガム、粘質物などはほぼ完全に分解され、水不溶性のセルロースはわずか、へミセルロースは半分程度分解されるだけで、リグニンはほとんど分解されません。このように、食物繊維は種類もいろいろあり、その生理作用も一つひとつ細かくみると実に多彩です。
 「ですから、いろいろな食品から複合型食物繊維としてとることが、食物繊維のもつさまざまな効用を最大限に生かすことにつながるのです」(桐山氏)


食物繊維の正しいとり方
 たくさん摂取すればいい、というわけではない

 私たちの健康と深くむすぴついている食物繊維ですが、だからといって極端な摂取にはしるのは危険です。
 まず、食物繊維はわずかですが、たんぱく質や脂肪などの吸収を妨げることかわかっています。「胃を切除した人、,腸が弱くて食の細い人、お年寄りでからだが弱っている人、貧血の人などは、食事全体の栄養バランスを無視して、食物繊維にばかりこだわっていると、ときとして栄養不足にならないともかぎりません」(印南氏)「普通の人が普通の食事をしているぷんには、たんばく質、脂肪、糖質ともに摂取量が多いので、そうした懸念はまずないでしよう。(桐山氏)
 むしろ、よく問題にされるのは無機質の吸収を阻害する、という説です。その理由としてあげられるのが、「食物繊維には陽イオン交換能がある」という事実です。
 つまり、食物繊維が消化管腔内でカルシウム、鉄、亜鉛など各種の必須金属イオンを結合し、そのまま便中へ排泄されてしまうというわけです。それでなくとも日本人に不足しているカルシウムや、貧血ぎみの人、妊婦にとって大事な鉄が食物繊維をとることで排泄されるとしたら、これは大きなマイナスです。
 「ところが、私どもが最近この点について動物実験を行ったところ、まったく意外な結果を得ました」(桐山氏)
 成長期のラットに全ミネラル欠乏飼料を与えると、その成長が初日から完全に止まりますが、この飼料に小麦フスマを10%添加すると、不完全ながら成長が回復します。また亜鉛だけが欠乏した飼料を与えると、四〜五日で成長が止まり、この飼料に10%小麦フスマを添加すると、成長は完全に回復し、標準飼料群と同し速度で成長したというのです。
 「もともと食物繊維には種々のミネラルがふくまれていますが、これらの実験結果は、ミネラルが欠乏状態にあるときには食物繊維が重要なミネラル供給源になることを示しています。そしてミネラルが充足しているときには、食物繊維が結合して排泄する。つまり、ミネラルは消化管控内で可逆的に結合、脱離しうることは明らかです」(桐山氏)
 すぺてのミネラルについて実験を行ったわけではありませんか、「鉄に関しては、食物繊維を抜いたときよりも与えたときのほうが、その吸収率が高まるという結果を得ました」(桐山氏)
 もっとも、現代の日本人は食物繊維の過剰摂取を心配するほど、十分な量がとれていないのが現状ですから、こうした問題を論じる必要性もあまりないでしょう。


一日の摂取量は20〜25gを目標に

 地方衛生研究所全国協議会が国民栄養調査から算出したデータ(一九八八年)によると、日本人の一日あたりの食物繊維摂取量は、昭和三十年には22・2g、五十年には18・32g、六十年には17・33gと減少し統けています。
 「これはコメなどの穀類や、豆類の消費量が減少していること、加工品の利用が増えたことなどが原因とみられます」(桐山氏)
 また、白米、生成した小麦粉や砂糖が当たり前とされる現代の食生活、おまけに高たんばく、高脂肪の食生活を続けていたのでは、十分な量の食物繊維をとるのはなかなか難しくなります。毎日の献立に意識的に食物繊維をとり入れる必要があります。
 では、一日当たりどれくらいの食物繊維をとればよいのでしようか。
 「一○人の成人男子の,糞便量と大場内の通過時間を調べたところ、便の量がl50gだと通過時間も三○時間で、一日一回、バナナ状の便が二本ぐらいゆったりと排泄されるという結果を得ました。そこで、これを達成するための食物繊維摂取量と糞便量との相関を調べると、一日20〜30gの食物繊維をとれば十分だろうと考えられます」(印南氏)
 厚生省は、第五次日本人の栄養所要量(1994年3月)で、目標摂取量を20〜30gとしています。この目標摂取量は、

  1. 摂取量の推移、
  2. 糞便量の確保に必要な食物繊維、
  3. 大腸憩室症や大場ポリープ、大腸がん、およぴ糖尿病などの発症と食物繊維摂取量との疫学調査結果、
などを基本に策定されています。
いろいろな食品から多種類の食物繊維をとる

 しかし、一日20〜25gの食物繊維を確保することは、現代の食生活ではなかなか難しいことです。100gあたりの食物繊維含有量の多い食品といえば、寒天、干し川のり、干しひじき、干ししいたけ、青のり、かんぴょう、干しのりなどです。
 「確かにこれらの食品には食物繊維がたくさんふくまれていますが、一回にそう多くは食ぺられません。たとえば寒天は食物繊維のかたまり、といっても、一回に食ぺる量を考えると、あまり食物繊維供給源として期待できません」(桐山氏)
 日常の食生活において食ぺる機会が多く、しかも比較的食ぺる量か多いことから食物繊維の供拾源として期待できるのが、穀類、芋類、豆類、野菜類、果実類、海藻類などです。「主食である穀物を、一日二度の食事できちんととり、できれば白米には押し麦を入れるとか、パンならライ麦パンや全粒パンにするなどの工夫が望まれます。野菜も根菜、葉菜などをとり混ぜて食ぺるようにします。それにはやはり和食が好都合でしょう。豆類や芋類、海藻類も合いますし、しかも食事全体の栄養バランスもよくなります」(印南氏)
 食物繊維は種類ごとにその生理作用が異なりますので、いろいろな食品から多種類のものをとるのが理想です。一品として食物繊維の多い食品を表2にまとめておきました。へルシープームで注目されている朝食シリアルは、穀類の胚芽やふすまなどが,豊富にふくまれていて、食物繊維を手軽にとるという点ては便利なものといえます。「ただ、これを食ぺているから安心というふうに考えるのは禁物です。あくまでも主な食物繊維供拾源は天然の食品、としてほしいものです。天然の食品ならば、食物繊維以外の栄養素も同時に摂取できます。健康を維持するためには、なんといってもバランスのとれた栄養が基本であることはいうまでもありまん」(桐山氏)

食物繊維を多く含む食品

繊維を多く含むお菓子や果物

「暮らしと健康」1995年11月号 保健同人社


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