精液の発生を抑制するものとして最もよく知られているのは、特定の農薬や2-ブロモプロパン(1,2-dibromo-3-chloropropane)(代替フロンの一つとして使われている)、そして放射線の照射です。
化学物質のいくつかは、内分泌システムの正常な機能を妨げ、「ホルモン作用(内分泌)撹乱」を起こすことがわかりました。こうした物質は環境ホルモンといわれ、野生動物や人間の種の保存を危うくするものと疑われています。
ここでは農薬にしぼって見ていきます。
生殖異変と農薬の関係で、世界中で最もよく知られているのが、ベトナム戦争でアメリカ軍が使った「2,4,5-T」という枯葉剤ではないでしょうか。61年から72年にかけて、合計1770万ガロンの農薬がベトナムの森林に撒かれました。その「2,4,5-T」を製造する段階で、不純物としてダイオキシンが混入していたのです。
それで、ベトナムでは70年以降現在にいたるまで、流産や先天奇形、肝臓がんなどの発生率が極端に高くなっています。一方アメリカでは、農薬製造工場の労働者がクロロアクネ(塩素座瘡)という症状や、肝臓障害などが出て公害訴訟が起きました。
「ホルモン作用撹乱」ということばは、私たちには耳慣れなくセンセーショナルに聞こえますが、農業関係者の方にとっては「ああ、それね」という感じだと思います。
というのは、農薬の一つの作用機構であるからです。
農薬関連の本には次のようにホルモン作用撹乱の定義が書かれています。「MCPAや 2,4-PAや2,4,5-Tなどの植物ホルモン類似物質を多量に与えると、成長のバランスが崩れ、枯れ死にいたる。
植物ホルモンやその類似物質を農作物の成長促進や品質改良、生産量の調整に用いたのが食物成長調整剤である」
その他農薬の作用機構は、神経刺激伝達阻害、たんぱく質合成阻害、DNA合成阻害、細胞膜合成阻害、エネルギー代謝阻害、光合成阻害などがあります。
農薬は、昆虫や植物の体内で化学反応の一部を阻害することによって効果を現わします。植物や虫ばかりではありません、人にとっても同様か、またはそれに似た化学反応が起こり、同じ効果(毒性)が現われるとされます。
つまり、農薬は植物や虫などに対して、人に作用がでない種類と量を、いわば綱渡り的に使用して、農業生産性を高めているものといえます。
しかし、生殖異変が人や野生動物に、農薬などによってごく微量でも起きることがわかってきました。これにより、環境における健康と安全性が、もう一度見直される気運が生まれています。
ことにヨーロッパでは、農薬や工業化学物質ばかりでなく、食品添加物や医薬品、そして最新のバイオテクノロジー産品までを検査する予定です(1996年11月時点の考え)。
また、アメリカ環境保護局(EPA)では、次の4つの塩素系農薬について、再評価を行う予定です。