安全な卵
健康・スクラップブック
安全な卵
「食品衛生研究」の今月号(vol.48 No.10 1998)に「鶏卵が関与したサルモネラ食中毒の発生概要と疫学」というリポートが青森県の衛生関連の職員の共同執筆という形で掲載されています。
青森県では、平成7年に9件(患者数132名)、平成8年12件(患者数360名)のサルモネラ(Salmonella Enteritidis)による食中毒が発生しました。このリポートは、その追跡調査と、その後にとられた鶏卵農場への対策などが、衛生管理者の活動の記録とともに書かれています。これは、鶏卵農場経営者や衛生管理者など、専門家にとって有益な情報かもしれません。
平成9年厚生省の調べでは、「食中毒は年間2000件、患者数約4万人」で、そのうちサルモネラ中毒は、患者数で言うと1万人を超えていちばん多くなっています。一昨年も1万6500人でした。
抗菌剤耐性菌とその対策
「卵の安全性」は、アメリカFDA(食品医薬品局)の「Safer Eggs」(10.1998)というリポートが分かりやすいと思います。
サルモネラ菌が、世界中でこれほど注目を集める理由は、抗菌剤耐性菌(antibiotic resistance)が増えてきたことによります。
普通の感染症が薬剤に耐性を持ってしまう脅威は、国際的に最も優先順位の高い問題の一つであるようです。つまり、中毒になったときに、特定の抗菌剤では菌を退治できなくなり、それだけ治療の困難さとコストが増えます。ことに発展途上国ではより心配な状況が起こると思われます。
そこで、WHO(世界保健機関)は、WHONETを立ち上げて、抗菌剤耐性菌のサーベイランスとデータの作成を製薬会社との共同作業で進めています。そこのところの事情は、「WHO AND THE PHARMACEUTICAL INDUSTRY JOIN FORCES TO COMBAT ANTIBIOTIC RESISTANCE」(11.1996)というリポートに要約されています。
安全な卵
卵は、安いわりに良質なタンパク質とビタミンを含むので、食卓に欠かせない食品の一つです。それで、最近危険な病気を媒介するものとして悪名を得てしまったが、単に恐れてばかりいられないので、適切な情報を得て「リスクを減らす」ことが大切ということです。
この「Safer Eggs」によると、FDAの調査では、卵は20000個に1個の割合で汚染されている可能性があります。----(日本の厚生省が調べた1992年のデータでは、20000個に6個の割合で汚染されていたということです。日本で1日に1億個の卵が出ているから、単純に計算すると1日2〜3万個汚染されたものが市場に流通していることになる。その汚染の内容も、殻の部分に付着して調理施設を汚染したものから、採卵鶏の品種改良を進めていくうちに、卵黄の部分にサルモネラ・エンテリティディスが入ってきたものという汚染が加わりました。その情報源は、食品衛生調査会総会(8.4.1998)です)----
サルモネラ菌はふつう動物(鳥やは虫類)の消化管にいるので、例えば先の青森の流行直後に県内の農場を調べたところ、卵管内のから付き卵では、数%(多い農場では20.9%)の確率で鶏にサルモネラが検出されました。また、盲腸便では50%に近い確率で菌が検出されました。言い換えると、鶏はサルモネラの流行時に、かなり高い確率で感染していたようです。
63°以上の熱で調理すれば、サルモネラは死滅するらしいです。
それで、安全な卵であるために、
- きちっと冷却された場所に陳列してある卵を選ぶ
- 正しく温度管理されて調理された卵を食べる
- 3〜5週間もたせたいなら、ドアポケットではなく冷蔵庫で一番冷えた場所を選んで箱のまま保存する
- 殻のままの卵は凍らないので、割った黄身と白身を混ぜて冷凍する
- 卵に触れたら手をよく洗う
- 黄身が固くなるまで熱を通す(半熟はひかえる) などが上げられています。
また、FDAが卵生産者にお願いしていることは、- 鶏小屋を清潔にし、群れの間で感染が起きないようにする
- 厳しいネズミ対策をする
- 卵をきちんと洗浄する
- 移送や集荷の際に卵を冷却した状態(摂氏7.2°以下)にする
- 微生物管理が万全な場所に保管する
- 鶏の疾病率をモニタリングする
- サルモネラに感染していない鶏や、若いめんどり(1歳未満)を用いる
アメリカでもそうですが、日本ではこのような対策が徹底されているとは思えない(ことに温度管理などはされていない)ので、「朝食に生卵」は日本の伝統的なメニューですが、免疫機能に自信がある人でも今のところ避けた方がよさそうです。(11.7修正)
修正理由
日本の厚生省は、今年(1998)の7月22日に「卵によるサルモネラ食中毒の発生防止について」という文書を出しています。
この文書によると、日本は生卵を食べる食習慣があるので、より安全な「生食用卵」という物が売られているらしいです。スーパーに並んでいるのを見ると、たしかにブランド別になっていて、それぞれ賞味期限などが書かれています。ただ、「生食用」と表示してあるものは見当たりませんでした。
ともかく、生食用だとこの賞味期限内だと「生で食べられ」、それ以後はしっかりと過熱した方がよいということです。(11.7.1998追加)
薬剤耐性菌はなぜ増える?
ところで、サルモネラには、わずかな一部に過ぎませんが、「MULTI-DRUG RESISTANT SALMONELLA TYPHIMURIUM」という薬剤耐性の菌があります。
イギリスのMAFFの「ANTIBIOTIC USE IN AGRICULTURE」というリポートに気になることが書かれています。それは、「農業に薬剤が、動物の病気を治療(抗菌剤)したり、飼育技術的な飼料の添加物(予防薬や生育促進剤)として盛んに使われている」ため、菌が特定の薬剤に強くなって生まれ変わっている。ことに、「Avoparcin(アボパルシン)という生育促進剤(growth promoter)が、エサが少なくて動物を大きく育てられるので重宝がられている」ということです。Avoparcinは、日本はまだ調べていないので分かりませんが(以下11.7修正)、デンマーク(1995)やドイツ(1996)ではすでに禁止になったようです。
こうした大量の薬剤使用が、薬剤耐性菌 出現の一つの理由に違いないようです。
11.9追加
バンコマイシン耐性腸球菌の出現には、飼料添加物として使用されているバ ンコマイシンに化学構造が類似したアボパルシンが関与しているのではないかとの報 告が欧州でなされ、日本でも調査されました。
その結果、わが国においては、飼料添加物としてのアボパルシンの使用について、平成8年11 月以降実質的に取りやめられており、平成9年3月には農林水産省が飼料添加物とし ての指定取り消しを行っています。
また、鶏の貿易相手国(例えばタイなど)へアボパルシンの使用禁止などを含めた対策の徹底を要請した。
関連URL:
Safer Eggs FDA
WHO AND THE PHARMACEUTICAL INDUSTRY JOIN FORCES TO COMBAT ANTIBIOTIC RESISTANCE 世界保健機関(WHO)
ANTIBIOTIC USE IN AGRICULTURE MAFF
「卵によるサルモネラ食中毒の発生防止について」 厚生労働省
食品衛生調査会総会(8.4.1998) 厚生労働省
鶏肉より分離されたバンコマイシン耐性腸球菌について 厚生労働省
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